たとえば細胞分裂が起きるときには、DNAが複製されますが、その始まりのスイッチの役割は亜鉛が担っています。また亜鉛はスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)という抗酸化酵素の活性中心(酵素の必須構成成分)です。SODは細胞を酸化ストレスから守る極めて重要な働きをしている酵素です。金属の亜鉛が、体内では錆止めとしての働きをしていることは、実に興味深いことです。
加齢に伴い体内の亜鉛総量は減少しますが、大きな問題は亜鉛の摂取量そのものも減少していることです。米国では、亜鉛の一日必要量は15mgと言われています。しかし60歳以上の年齢の約40%にあたる人々で、亜鉛の摂取量がわずか7mg程度にすぎないと言われています。
加齢以外にも亜鉛が減少する原因があります。それは大量のアルコール摂取です。アルコール代謝酵素には亜鉛が使われていますので、飲酒量が多い場合は亜鉛欠乏がおきやすくなります。
加齢に伴い生じる免疫力の低下現象を免疫老化と呼びますが、その原因の一つとして体内亜鉛の低下があります。免疫力の低下が起きると、感染症にかかりやすくなるだけでなく、ガンの発生率も高くなります。免疫老化では免疫力の調整がとれなくなる結果、炎症をコントロールできなくなり、動脈硬化や骨粗鬆症等に罹患しやすくなるだけでなく、自己免疫疾患になる確率も高くなります。
亜鉛が不足すると重金属汚染の影響を受けやすくなることも忘れてはいけません。亜鉛、カドミウム、水銀は元素周期表からすると同じ12族にあります。同族とは元素の一番外側を回っている電子の数が同じということです。これは元素の性質が極めて似ていることを意味します。このため食品中の亜鉛が少なくカドミウムや水銀などが多いと、必須ミネラルの亜鉛ではなく、有害金属であるカドミウムや水銀が体内へ吸収されやすくなります。
カドミウムはお米に、水銀は大型魚類に多く含まれますので、日本人は普段から亜鉛を豊富に含む食品を摂るように心がけたいものです。 亜鉛を多く含む食品の代表は何と言っても牡蠣ですが、その他の食品のリストはこちらをご覧ください 。