遺伝子解析

先日、とある会合で遺伝子解析の話題になりました。10年ほど前までは、数百万円かかると言われた、人間の全遺伝子(ホールゲノム)解析が、現在では30万円ほどで、できるようになったということです。

自分の遺伝子を知りたい、という方には嬉しい情報かもしれません。しかし一方では、解析してどうなるの?と思われる方も多いと思います。遺伝子解析では、通常の並び方と異なる塩基配列(遺伝子変異)を見つけ出すことができます。

この遺伝子変異があると、特定の病気になりやすいことが知られています。たとえば前立腺癌になりやすい遺伝子変異には数十種類があると言われています。認知症や糖尿病などにかかりやすいか否かについてもわかる可能性があります。 しかしこうした診断方法は、まだ完璧なものではありません。むしろ遺伝子の発現を制御している、エピジェネティクスと呼ばれる遺伝子の周囲に絡まっているタンパク質の制御や、環境汚染による遺伝子発現障害などの方が、病気に罹患する確率を大きく左右する可能性があります。

遺伝子の塩基配列を知ることは、無意味なことではありませんが、実際の臨床に実用できるか否かはまだ議論も多いところです。しかし時代の流れは、確実に遺伝子医療の世界に突入して行くようです。つい数ヶ月前にも、ある医療施設で遺伝子情報とAIを活用し白血病患者の治療に役立てたことが新聞記事になっていました。

我々の遺伝子はどこからやってきたのでしょうか? 言うまでもなく我々の遺伝子は、ご先祖様からの預かり物です。もっと遡ればすべての人類の遺伝子はアフリカにまで集約することが解明されています。さらには微生物の世界にまで、遺伝子の歴史を辿ることができます。

生物学者のライアル・ワトソン博士が、著書の中で「人間はDNAの乗り物である」という、大胆な仮説を1980年代に提唱しました。各個体は数十年で死滅してゆくのに対して、遺伝子は永遠に存続してゆくことを指摘したものです。

生命体の主体が遺伝子にあるとしたら、人間の存在とは何なのでしょうか?「我思う、故に我あり」、デカルトが述べたように思考することが我々の存在の証なのでしょうか。それとも生命誕生の時代からから積み上げてきた、DNAの持つ記憶の集合体なのでしょうか。年末には、遺伝子の故郷であるご先祖様の墓参りをするだけでなく、解答の出ないであろう、この問いについても考えてみたいと思います。 読者の皆さまにとって良き新年となることをお祈り申し上げます。

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