日本蕎麦の歴史は縄文時代にまで遡るとも言われていますが、寿司や天麩羅と並んで日本食には欠かすことのできない食材です。近年の健康ブームもあり、蕎麦は日本だけでなく欧米諸国でも健康食として注目されています。その理由の一つが、蕎麦に含まれる多種にわたる栄養素や食物繊維にあります。
蕎麦に含まれる栄養素の中で、他の穀類にはあまり含まれない特徴的なものが、ルチンです。ルチンはポリフェノールと呼ばれる抗酸化物質の一種で、ケルセチンというフラボノールの化合物(配糖体)です。ルチンには強い抗酸化作用があるだけでなく、血栓予防効果もあることがハーバード大学の研究者らによって明らかにされています。(下図)
この研究グループは、PDI(protein disulfide isomerase)という酵素の働きについて調べています。PDIはすべての細胞内に含まれる酵素ですが、血栓ができるときには、血小板や血管内皮細胞から大量に放出されることが知られています。細胞外に放出されたPDIの働きを阻害すると、血栓形成が抑制できることを発見しています。
この研究では、約5000種類以上の物質について、どの成分が一番PDI抑制効果が強いかについて調べています。その結果一番効果が強かったものが、ルチンであったということです。ルチンの正式名称は、quercetin-3-rutinoside というように、ケルセチンに糖が結合したもので(下図)、強い抗酸化作用もあることがわかります。
蕎麦の中でも、韃靼蕎麦(ダッタンソバ)には、通常の蕎麦の100倍の濃度のルチンが含まれると言われています。この韃靼蕎麦に含まれるルチンを用いた研究では、細胞内のオートファジーが促進されることが、大阪大学の研究から明らかにされています。オートファジーとは細胞内の古くなったタンパク質を掃除する働きですので、この現象はアルツハイマー病予防効果などが期待されます。
蕎麦の持つ健康効果についての基礎的な研究が進んでいます。血栓予防やアルツハイマー予防効果など、現代人にとって注意が必要な疾患に対する予防効果も期待できそうです。もうすぐ秋の新そばのシーズンになります。美味しい蕎麦を食べることで、健康増進をされてください。