鉛中毒患者の治療として、1950年代から始められたキレーション治療ですが、この治療を心臓血管疾患の目的として使用することは、医学会の中ではなかなか受け入れられませんでした。
1960年代は様々な医師たちが、この治療法のメリットやデメリットについての検証を行なっています。そして1973年にキレーション治療についての研究会が発足し、安全で効果的なキレーション治療のガイドラインが作成されました。
しかしその後もキレーション治療に対する反対意見は医学論文でも報告され、この治療を行うことの是非が問われるような時代が長く続くことになります。その背景には、現代医学が医薬品を中心とした実験医学に基づくものであり、キレーション治療のように経験主義的な治療法を許容できないという、医学会の特質があったようです。
キレーション治療が広く受け入れられなかった、今一つの理由が、医療における市場主義原理と言われています。安価で安全で効果的な治療法が普及することに対して、高額な治療費を要求する専門医や周囲の業者からの反発があったことは否定できません。実際2000年頃までは、キレーション治療を行なっている医師に対して様々な圧力がかかっていたようです。
こうした背景もあり、2002年に米国のNIHの統合医療部門( NCCIH)は、キレーション治療の有効性を確認するための臨床試験(TACT:trial for assess chelation therapy)を行うことを決定しました。研究資金は、その当時の日本円で約30億円という膨大なものでした。
この臨床試験は、キレーション治療に心筋梗塞再発予防効果があるか否かを確認するという目的で行われています。当初の予定では2003年から5年計画で行われる予定でしたが、症例数が集まらないために試験期間が5年ほど延長され、2013年に臨床試験の結果が論文上で公表されました。
その結果は、大半の医師の予想を覆すものであり、キレーション治療には心筋梗塞予防効果があるという内容でした。この臨床試験の総括責任者であるLamas医師と米国で対談したとき、彼が口にしていたのは、まさかこういう結果が出るとは、彼自身も予想していなかったという言葉でした。この臨床試験の詳細については次回お話しします。
<<お知らせ>>
11月5、6日に、第18回キレーション治療セミナーを行います。初日は基礎コースとしてキレーション治療の実際についてお話します。二日目は応用編として5名の先生方から最新医療情報についてお話しいただきます。今年は恩師であるテリー・グロスマン先生にもご登場頂きます。参加者は医療関係者に限られますが、参加ご希望の方は下記より登録をいただければ幸いです。詳細は下記をご覧ください。