「栄養素は普段の食事から十分補えるから、サプリメントは不要です!」このように断言されていた方がいました。確かその時、「サプリメントなんか」という表現を使っておられたことを記憶しています。栄養サプリメントに対する偏見のようなものをお持ちの方だったのかもしれません。
時代を遡ると、栄養医学を軽視した陸軍では脚気による死亡者が数多くいたのに対して、栄養素の働きを重視した海軍では脚気を患う兵士がほとんどいなかったとされています。その当時も、たかがビタミンという固定観念が蔓延しており、栄養補充についての偏見があったのは事実です。
現在の日本におけるビタミンDの普及度合いの低さを見ると、まさに歴史の繰り返しではないかと感じてしまいます。信じられないかもしれませんが、現代の日本人では、年齢を問わず、ビタミンDが不足または欠乏している方が、なんと8割ほどに達しています。
ビタミンDは紫外線によって皮膚で作られる栄養素です。その原料はコレステロールであり、ステロイドホルモンの親戚のような存在です。ビタミンDの働きは、下に示すように様々なものがあります。中でも免疫機能の調整役としての働きは、新型コロナ感染症の重症化を防ぐ働きにも繋がっており、極めて重要なものです。
最新の論文でも、高齢者においてビタミンDレベルを上昇させることが死亡率の低下につながることを指摘しています。この研究では、60歳から113歳までの高齢者、1362名の血中ビタミンD濃度を測定し、4年から6年に渡り経過を観察しています。調査期間中に対象者のうち420名が死亡していますが、ビタミンDが低い対象者は高い者よりも死亡するリスクが2倍に上がっていたということです。さらに興味深い点は、高齢者になってからビタミンDを摂取し血中ビタミンD濃度を上げた対象者では、死亡リスクが減少していたということです。
寒さが厳しいこの時期は、一年のうちで最も血中ビタミンD濃度が下がる時期です。健康維持のために、積極的にビタミンD補充を行うことは、感染予防だけでなく、様々な疾患の予防につながります。1日あたり2000~5000 IU(50~125 μg)を目安に補充することをお勧めします。