メトフォルミンは、糖尿病治療薬として約60年ほど前から使用されている比較的安価な医薬品です。この薬によって、本来の目的とは異なる甲状腺がんの発症率を抑えることができるという最新の論文が発表されています。
この研究は、5本の論文を精査したものですが、約170万人について調べた結果、メトフォルミンを服用している患者では、甲状腺がんを発症するリスクが、32%軽減できる可能性を指摘しています。さらに人種別に調べた結果、甲状腺がん予防効果は、西洋人で11%であったのに対して、東洋人において顕著であり、45%の予防効果が認められました。
メトフォルミンの作用機序は、肝臓における糖の産生を抑える働きと、筋肉細胞における糖の取り込みを促進する働きが知られています。近年では腸内細菌叢のバランスにも影響を与えているという研究もあります。1960年ごろから臨床使用が始まりましたが、1970年代後半に、ごくまれにしか起きない乳酸アシドーシスという副作用が報告され、20年近くその使用は禁止されていました。しかしその安全性が再確認されたことで、2000年ごろから欧米諸国では糖尿病治療薬の第一選択薬として使用されています。
さらに興味深いことは、メトフォルミンに寿命延長効果があるのではないかという基礎研究の発見から、医学史上初めての寿命延長医薬品としての可能性を検証するための臨床試験が現在進行中です。
がん細胞は正常細胞よりも糖をエネルギー源として多く利用する性質があります。このため糖尿病患者ではがんの罹患率が高くなる傾向があります。今回の研究のように甲状腺がんの発症率が低下した理由の一つに、メトフォルミンによる血糖コントロール効果があると考えられます。