ビタミンDは単なるビタミンではなく、その本質はステロイドホルモンの前駆体です。その働きは神経保護、神経炎症の低減、セロトニン合成の促進、脳の可塑性向上などの効果があり、うつ病、自殺予防、ADHD、不安神経症に関する研究でもその重要性が示されています。ビタミンDは、元来は骨の健康を支える栄養素として発見されましたが、近年は脳を含む多くの組織でその受容体が見つかり、免疫機能や遺伝子発現に影響を及ぼすことがわかっています。
うつ病に関しては、ビタミンDが季節性情動障害(SAD;seasonal affected disease)や肥満患者のうつ症状を軽減する可能性が示唆されており、最新のメタ分析でも低ビタミンDレベルがうつ病と関連することが示されています。自殺リスクにもビタミンD欠乏が関連しているとされ、軍人や退役軍人においてビタミンD補給が自殺リスクの軽減に有効であったとする研究もあります。ADHDに関しては、ビタミンDが正常な脳発達に必要であり、ビタミンDの欠乏がADHDの発症リスクを高める可能性が指摘されています。
さらに、不安神経症にもビタミンD補給が有効とする研究があり、一般的な治療にビタミンDを併用した場合、不安レベルの低下が観察されています。一部の臨床試験では効果が見られなかったものもありますが、ビタミンD欠乏状態での補給は精神健康の向上に寄与する可能性が高いとされています。ビタミンDは精神科での検査項目としても重要であり、個々の患者に対する個別の治療アプローチを支える基礎的な栄養素と考えられます。
日照時間が短くなる今の季節は、精神的に鬱症状を呈する方も増えるとされています。血中ビタミンD 濃度を調べて、不足しているビタミンDを補充することは、こうした精神症状の改善にもつながります。