ライプニッツ分析科学研究所(ISAS)を中心とした国際研究チームが、天然成分エルゴチオネインが動物の健康寿命を延ばすことを明らかにしました。
エルゴチオネインは、タモギダケ(写真)やヒラタケなどのキノコや発酵食品に含まれる成分で、サプリメントや化粧品に利用されています。これまで細胞保護効果が示唆されていましたが、その具体的な作用メカニズムは不明でした。最近の研究では、線虫 (C. elegans) にエルゴチオネインを投与した結果、寿命の延長、運動能力の向上、ストレス耐性の増加が確認されました。同様の効果が9カ月齢のラットにも見られ、持久力向上や筋肉組織の血管新生、筋幹細胞の増加が観察されました。これらは、サルコペニア予防への応用が期待される結果です。
研究チームは、エルゴチオネインが酵素であるシスタチオニン-γ-リアーゼ(CSE)の代替基質となり、細胞を酸化ストレスから守る硫化水素(H₂S)の生成を促進することを明らかにしました。H₂Sは加齢や心血管疾患、神経変性疾患の進行を抑制する働きを持ちます。さらに、エルゴチオネインはグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)の活性を高め、長寿に関わる補酵素NAD+の産生を促進することが示されました。
また、若いラットを対象に行った短期試験では、エルゴチオネインを5日間投与した結果、持久力と血清中のNAD+レベルが有意に向上しました。これにより、エルゴチオネインが代謝に良い影響を与える可能性が示唆され、健康な成人を対象とした臨床試験が計画されています。