第1は、外から侵入してくる細菌やカビなど、病原性のある微生物を死滅させることです。空腹時に胃酸のpHは1.0~2.0前後にまで下がります。これはかなり強い酸であり、特殊な微生物でないと生き残ることができません。このため口腔内にはかなりの数の細菌(10の10乗単位)が生息していますが、胃ではその数が10万分の1ほどに減少しています(10の5乗単位)。
第2は、タンパク質の消化吸収のために胃酸が重要な働きをしていることです。タンパク質を消化する時に働く酵素のペプシンは、胃酸によって活性化されます。胃酸がないとせっかく食べたタンパク質が消化吸収されないために、お肌や髪の毛の質が寂しいものになってしまいます。さらに悪いことには、未消化のタンパク質が小腸に運ばれることによって、腸内の腐敗発酵が起きやすくなり、お腹の調子が悪くなってしまいます。
第3はミネラルの吸収です。カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など、健康維持のために欠かすことのできないミネラル類は、胃酸があることで十分に吸収される仕組みがあります。 胃酸の分泌を抑えてしまう医薬品を常用しているとこれらの3つの重要な働きが全て阻害されてしまいます。先日も外来に見えた男性の患者様の骨密度が平均以下であり、不思議に思い尋ねたところ、5年間以上も制酸剤を飲み続けていたということでした。
制酸剤を長期に服用すると、骨粗鬆症になるリスクがあることは文献的にも知られていますが、胃薬であればなんでも良いのだと大きな思い違いをされている方も多いようです。 高齢になると逆流性食道炎になりやすくなりますが、これは胃の入り口に当たる噴門部の筋肉の働きが弱くなり、胃の内容物が逆流しやすくなるために起こる現象です。症状がひどい場合には、短期間だけ制酸剤を使用することは意味のあることですが、その後は別の医薬品に変えることをお勧めします。
胃酸は健康のためにはなくてはならない存在であることを忘れないでください。安易な制酸剤の使用は控えた方が賢明です。