福田先生の名前を世界的に広めた研究は、2011年にNature誌に掲載された、O-157大腸菌感染とこれに対抗する腸内細菌の働きに関する研究です。 O-157に感染しても症状の出る人と出ない人がいることに着目した福田先生は、その違いが宿主の腸内環境にあるのではないかと考えました。
動物実験で検証した結果、腸内細菌叢が整っていると、酢酸が産生されて腸粘膜の透過性を保持し、O-157の放出する毒素の侵入を防いでいることを見つけました。最近ではNHK特集などでもよくお見かけする有名な先生になられています。
この10年、遺伝子解析技術などの進歩もあり腸内細菌叢の研究は飛躍的に進んでいます。腸内細菌叢の変化が様々な病気の原因になることも確認されています。高脂肪食を摂取し続けると、腸内細菌叢が変化し、大腸炎や大腸がん、糖尿病、肝臓がん、そして動脈硬化やアレルギーなどの原因となることがわかってきました。
こうした背景から、偽膜性大腸炎という治療が困難な疾患に対する糞便移植という斬新な医療技術も確立されてきています。 驚くべきことは、うつ病、多発性硬化症や自閉症などの脳神経系の疾患と、腸内細菌叢との関係も明らかにされつつあることです。
腸内細菌の作り出す物質が脳内の神経伝達物質になっていることも解明されています。「腹の中がわからない」「腹を割ってはなす」「腹が座る」日本語には腸内細菌叢と頭の中との関係を示唆するような表現がいくつもあります。健全な精神を作るのは健康な腸内細菌叢なのかもしれません。