キレーション治療とは (その3);TACT研究の結果

EDTAを用いたキレーション治療についての続きです。米国のNIHの統合医療研究部門が、3,000万ドル(約33億円,2003年当時)という大規模な研究資金をかけて行った臨床試験が、TACT(Trial for Access Chelation Therapy) 研究です。

TACT研究とは、読んで字の如し、キレーション治療の有効性を見極めるためのものであり、2003年から2012年までの期間、臨床試験が行われ、その結果は2013年に米国医師会雑誌であるJAMAに報告されました。

タイトル画像のロゴにある、ギリシャ神話の女神「テミス」が目隠しをしているように、この臨床試験は、二重盲検法による比較試験であり、しかも多施設が参加する最も信頼性の高い臨床試験に位置付けられています。当初は5年間で終了の予定でしたが、症例数が足りないために5年間の延長を行い、結果的に約1700名が参加した臨床試験となりました。

その結果は下図に示すように、キレーション治療には心筋梗塞再発予防効果があることが正式に認められました。この結果が発表された時、多くの心臓内科医から結果に対する反対意見も出たようです。しかし、この研究は米国の公的研究機関が行った第1級の臨床試験でしたので、どうやっても結果を否定することは不可能でした。

キレーション治療では有意にEndpoint(研究中止せざるを得ないような病態)発症率が低かった。

さらに興味深いことは、糖尿病患者に絞って研究結果を精査したところ、キレーション治療を受けていた患者では、死亡率が43%、心筋梗塞発症率が50%も減少していたことが判明しました。このように大幅に死亡率や心筋梗塞発症率が減少するような治療方法は他にはありません。

こうした背景から、糖尿病患者に対象患者を絞った第2次の臨床研究、TACT2研究が、2017年から開始されることが決まりました。2021年12月には、約1000人の対象患者への点滴治療も終了し、2024年に結果が公表される予定です。

TACT2とTACTの大きな違いは、TACTに参加した医療機関は開業医のみでしたが、TACT2には、ハーバード大学やNIH(米国国立衛生研究所)などといった公的研究施設が10数箇所も共同研究機関として登録されていることです。糖尿病患者の死亡率がなぜ大幅に下がるのか、そのメカニズムについての解明も進むことになりそうです。

Am Heart J. 2022 Oct;252:1-11. 
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